TOP > Game > Dissidia Final Fantasy > Squall x Cloud > retrouvailles > 02
クラウドは外の冷たい空気にさらされている手を擦り合わせながら目の前の扉が開くのを待った。
(あと約10秒、)
ちら、と腕時計を見てくすりと笑う。クラウドの予想したぴったりの時間にガチャリと開かれたドアの先にいた人物に向かって「おはよう」と声をかけた。
クラウドがした挨拶にスコールが驚いたように目を見開いてから固まった。
「………おはよう」
暫しの間を置いて引き攣った顔でスコールが返事を返した。
「…あんた、男に付きまとってそんなに楽しいか?」
「ああ、楽しい。スコール相手ならな」
「……仕事に行く」
「いってらっしゃい。ああ、あとこれ、やる」
クラウドはスコールに茶色い封筒を渡した。
「何だ、これは?」
「俺の最高傑作」
「は?」
「ほら、早く行かないと遅刻するぞ」
そうクラウドが言うと、慌てたように階段を降りていったスコールの背を見えなくなるまで見つめ続けた。
「…やっぱりあんたはすごいな、スコール。信じられないようなことをこうやって実現するんだから」
俺には真似できない。
『真似する必要なんてないだろ?』
クラウドの脳裏に困ったようにそう言ったスコールの声が蘇る。
「懐かしいな…」
(あんたはいつだってそうやって俺の沈みそうな心を引き上げてくれる)
もう見えなくなったスコールの姿を目に焼き付けて自分の部屋へと戻る。
幾分か素直になった今の自分なら、いつか言えるだろうか。
「逢いたかった、スコール」
再会の言葉を。
***
失うのが怖いか?
当然だ。俺は何度も失ってきた。自分の所為で。
だから怖い。自分から手を伸ばすのが怖い。手を伸ばしたその先で手に入れたモノが無くなってしまうのが。
自分の手をぼんやりと見つめていると、隣で月を見上げていたスコールが向き合うように動いた。
「あんたは何を考えている?」
逸らすことを許さない揺るぎない意志を持つ瞳が真っ直ぐに見つめてくる。
「この戦いが終わったら、俺たちは離れることになる」
「…そうだろうな。俺には俺の、スコールにはスコールの世界がある」
「それからはどうなる?」
「それから…?」
「あんたはどうせ、別々の世界へ戻ったら二度と会うことはないと思ってるんだろう?」
「…当然だろ。俺たちが生きる世界は同じじゃない」
「でもその別々の世界で生きていた俺たちはこうして会うことができた」
「………」
「俺は諦めない。あんたのことを」
「ッ、」
「こうして会えたことが奇跡だと言うのなら、もう一度奇跡とやらを起こしてみせる」
「スコール…あんたは強いな…」
「そうでもない。俺は今こうしている間も不安でいっぱいなんだ」
「そうは見えない」
「感情を顔に出さないでいることは得意だからな」
「…俺もだ」
思わず、くすりと笑った。
「それだ、クラウド」
「……?」
「あんたが辛そうな顔をしてることに俺は耐えられない」
頬に手を添えられる。
「そんな顔はしないでくれ、クラウド。笑ってくれとは言わない。でもそんな痛みを堪えて、すべてを抱え込むような顔はやめてくれ」
するりと長い指先が頬を撫でた。
「必ず…また会うことを約束する。だからあんたも信じてくれ」
「スコール…あんたはずるい。人との関わりを拒むような素振りをするくせに、そうやって人をたらし込む」
「たらッ!? あんたな、」
「そんなつもりはないんだろうが、俺みたいな人間に好かれると痛い目見るからな」
「はぁ?」
「あんたの約束、信じてやる。でも信じたからには忘れてやらない。俺は一度、約束を忘れるという過ちを犯してる。だからこそ、二度と同じことを繰り返さない。だから、スコールとの約束はこれから先ずっと忘れることはない」
「嬉しい限りだ」
「俺が忘れないということはあんたがその約束を果たすまで付きまとうということだ」
「付きまとう? あんたになら大歓迎だな」
「その言葉、後悔するなよ」
「しないさ」
「……でも…もとの世界へ戻って再会を果たせないまま死ぬかもしれない」
「今約束するって言ったばかりだろう! 俺を信じると!」
「信じている。だから、たとえそうなっても…死んでも忘れてやらない」
何十年後でも、何千年後でも、生まれ変わったその先で会えることを信じてる。たとえ違う世界を生きていようとも、星がスコールのもとへ導いてくれる。
なぁ、そう思ってもいいだろう?
――きっと、大丈夫、だよ。
応えるように柔らかい声が聞こえた気がした。
不思議そうな顔をするスコールに手を伸ばす。
自分から、スコールに。
自分より高い位置にある彼の頭を引き寄せて額同士を合わせた。
「だから、あんたも信じていてくれ。俺があんたとの約束を決して忘れないということを」
「…勿論だ、クラウド。必ず再会を果たそう」
唇がそっと合わさる。
ぼやけるくらい近い視界の先でスコールの深い蒼を見つめながら言う。
「ありがとう、スコール」
そう言うと、スコールが驚いたような顔をしてから、何かこみ上げてくるものを抑えるような顔をして、それから、笑った。
だからきっと、俺は今、笑えている。
***
「花をもらえるか?」
「1ギル、ね?」
「ぎる? どこの国の単位だよ、それ」
「秘密」
「あ、ずりぃ! クラウドは知ってるのか!?」
「ああ」
「なんだよー、俺だけ仲間はずれかよー」
「これは私とクラウドのひみつ」
「そうだな」
「ひでぇ! なぁ教えろよ、クラウド!」
「ザックス、うるさい」
「…ちぇ……あ、そうだ。エアリス知ってるか? クラウド君ったら、隣人の超イケメン君をものにしようとしてんだぜ?」
「え、なに? 詳しく知りたいな」
「エアリス…」
「ふふ、いいよね?」
「お、噂をすれば」
バンッと勢いよく扉が開かれる。
「クラウド!!」
スコールが怒りを滲ませて呼んだ。
「おいおい、スコール君。ここはお花屋さんだぜ? そんな顔して入ってきちゃダメだろ」
「黙れ、あんたに用はない」
「うわーこわーい。クラウド、こんな男やめちまえばー?」
「あんたには見る目がないんだな、ザックス。どんなに怒っててもこんなに格好いいんだぞ?」
「…クラウドが面食いだとは知らなかった」
「クラウド!! あんた、これはどういうことだ!?」
スコールは勢いよくクラウドに何枚もの写真を見せつける。
「どういうって…スコールの写真だ」
「〝盗撮した〟写真だ…!」
「よく撮れてるだろう?」
「ッあんたな! これは紛れもなく犯罪だ! そんなに逮捕されたいのか!?」
「してくれるのか?」
「おお、クラウド大胆! 今日は手錠プレイですか」
「あんたらな…!!」
スコールが頬を引き攣らせながら怒鳴った。
クラウドはどこ吹く風でそんなスコールを無視してザックスと話し込んでいる。
(まったく…本当にどうしてくれようか)
スコールが深い溜め息をついたとき、エアリスがくすくすと笑声を漏らしながらスコールの名を呼んだ。
「スコール、さん? 私、エアリス・ゲインズブール。会うのは初めてだね。ここのお店私が開いたの」
「あ、ああ」
ここの花屋はスコールの仕事場からの帰り道の途中に位置する。以前に仕事帰りにスコールを待ち伏せしていたクラウドに連れて来られたとき、この店にはザックスしかいなかった。だから、この店主に会うのは初めてだ。
突然の自己紹介に戸惑いながらもスコールが返事を返すと、エアリスはスコールの顔を下から覗き込むように見つめた。
「…なんだ」
「クラウドのこと、よろしくね」
ちら、とエアリスがクラウドを見る。その視線を追ってスコールもクラウドを見た。
クラウドは楽しげにザックスと話している。二人分の視線に気づいたのか、クラウドがこちらを向いた。
その瞳がスコールを映して、そして、花咲くようにふわりと笑った。
その姿に怒っていたことも忘れて思わず見つめていると、エアリスが小さく呟いた。
「クラウドとスコール、とてもお似合い、ね」
「……勘弁してくれ」
手もとの盗撮写真に目を落としてそう言うと、エアリスが可笑しげに笑った。
(続く)