TOP > APH > Gilbert x Kiku > Short > 現實に結ぶ夢 > 03
その日、世界会議は予定通りドイツで開かれた。
すでにベルリンにいたため、普段より幾分か早めに会場入りした。席を確かめておこうと会議が行われる一室に入る――いや、正直に言えばただ単に逢いたい人がいたから、時間より大分早く向かったのだ。
扉を開ければ、幾人かの視線がこちらを向いた。ああそういえば、と思い出す。日本が参加する会議より先に欧州数ヵ国が集まる予定があったらしい。
「日本?」
目を丸くしたドイツに呼ばれる。今回の会議の議長である。
「随分と早いな」
「すみません。お邪魔してしまいましたか」
踵を返そうとする日本をドイツが止める。
「いや、もう終わったから大丈夫だぞ」
部屋に入ってきた日本に視線を向けた数ヵ国は気にするわけでなく、すぐに視線を外していた。ざわざわと談笑している者がほとんどだ。
取り敢えず挨拶を、とドイツへと近づき頭を下げた。
「お疲れ様です、ドイツさん」
「ああ」
こくりと頷いたドイツが日本をまじまじと見て目を瞬かせた。
「日本、それ…」
「はい?」
「ヒューゴボスか?」
「あ…はい。新調したんです。似合いませんかね…」
日本は己の纏うスーツに視線を落とし苦笑した。ドイツを代表するファッションブランドのこのスーツはおよそ日本が選ぶような代物ではなかった。
「いや! そんなことはない。とても似合っているぞ」
「ふふ、ありがとうございます」
「だが珍しいな」
ですよね、と内心で同調しながら頬を掻くドイツを見上げる。彼が纏うシンプルで伝統的なスーツも彼のブランドのものであった。
「スーツも今は細身が流行だろう? ここのものは言ってしまえば古臭いからな」
ちら、とドイツが見やった先を追えば、イタリアとロマーノが話していた。彼らが今日纏っているのは、ドルチェ&ガッバーナの高級スーツである。クラシックをベースにはしているが、独特のデザイン性も兼ね備えている。細身のそれはどこかエロティシズムを感じさせる。さすがイタリアブランドと言ったところだ。どちらかといえば、ビジネスというよりパーティー向きのように見えなくもないが。
「ここのはドイツ人のボディラインに合わせていて重厚でがっしりした形だからな。細身の日本人はあまり選ばないと聞いている」
確かに、世界で圧倒的な地位を築くこのブランドのスーツは日本ではそこまで勢いのあるものではないかもしれない。それでも日本の有名デパートにも並ぶブランドである。大方高級ブランドの並ぶフロアにあるので、中々入るのには勇気がいるけれど。
「確かに青瓢箪的な私にはハードルの高いブランドです」
「あおびょう…何だって?」
「…いえ、何でもありません。いつもドイツさんが着ているのを見て格好いいなと思っていたのです。オーダーメイドですから、私でもそこまで悲惨になってなければいいと思うのですが」
かの有名なドイツの軍服をデザインしたのもこのブランドだ。日本にとっては格好いいと瞳を輝かせるそれは、ドイツには言ってはならないのだろうなと口を噤んだ。まぁ、その所為でこの会社はアメリカに過酷な制裁金と事業停止を課されることになるわけだが。後にメンズスーツで息を吹き返し、男性用香水や時計の販売と事業を拡げ、世界で名の知れたドイツのファッションブランドとなった。
「似合っていると言っただろう」
格好いいと言われたことに頬を微かに朱く染めたドイツが微笑んで応える。
「嬉しいなと思う」
「はい?」
「日本が俺の家のブランドを身に纏っているのがな。俺と兄さ…兄貴もここのスーツだから」
そう言って日本の後ろへ視線を向けたそれを追いかけて振り向く。そこには、フランスと小突き合うような仕草をしながら会話するドイツの兄、プロイセンがいた。
「おや、今日はプロイセン君も参加なさるのですね」
白々しくもそう言う。プロイセンが参加することは昨日聞いていた。
「ああ。俺の補佐という形で手伝ってもらうためにな」
どこか嬉しげな顔だった。ドイツはそれをおくびにも出さないが、存外お兄ちゃん子である。一線を退いた兄が世界の舞台にいることが嬉しいに違いない。
珍しいプロイセンのスーツ姿。伝統的で重厚なシルエットに身を包む姿はとても様になっている。日本はその姿に目を細めた。ストイックさを彷彿させるその様が昔の軍服姿と重なって見えて、堪らない気持ちになった。
指先を己が纏う生地に滑らす。数ヶ月前、イギリスでの仕事があるとプロイセンに伝えたところ、ちょっとだけでいいからドイツに寄れと強く言われた。久しぶりの対面を感動する間もなく引き摺られていった先はこのブランドのお店だった。あれよあれよと言う間にオーダーメイドすることとなったこのスーツは、昨日プロイセンから渡されたものだった。だからあの時、喜々として日本が纏っていたスーツを切り刻んだに違いない。これを着させたくて。こんな高級スーツに払うお金は一体どうしたんだか。自宅警備員のくせに。一方、彼が纏うそれは恐らく弟さんが全額払ったんだろうなぁと日本は一瞬遠い目をした。
狡い人。ビジネスで纏うものをプレゼントするなんて。仕事中でも片時も俺様のこと忘れるんじゃねぇぞ、と言われているようなこれは、身に纏うだけで体温が上昇する気さえした。
じとり、とプロイセンを見やる。しかし、日本の視線が彼のそれと絡むことは決してなかった。日本の気持ちを身体をこんなふうにしたくせに、彼は素知らぬ振りを貫くのだ。
日本とプロイセンがこんな仲になったのは、日本がドイツと手を取り合った頃のことである。恋人というには軽くて、愛人というには重い。そんな関係の始まりだったように思う。何故手を伸ばしたか、明確な答えは未だ出ていない。ぐちゃぐちゃに混ざり合った感情なのだとは思う。そのひとつひとつを上手く取り出して、それが何なのか確かめることも不可能なほどの大きくて掴みどころのないもの。ただあの人にだけ抱く想い。私はきっとあの人じゃなければ嫌だった。あの人が、よかった。
愛を囁くなんてことは一度としてなかった。限られた時の荒々しい接触だった。予断を許さない状況下、ましてや世界から孤立したから手を取ったような状態で、二人の仲を誰かに伝えるなんてことはしなかった。むしろ、明確な関係でもないのに伝えようだなんて欠片も思いはしなかった。仮に愛を囁き合った恋人だったとしても関係を漏らすことはなかったのかもしれない。いつの間にかそれは暗黙の了解となっていた。二人だけが知り得る、名も付かない関係。それは今現在まで続いている。
二人以外の第三者がいる中で、プロイセンが積極的に日本に話しかけるなんてことは絶対にない。あくまで弟の友人として接してくる。日本、と呼ぶ声に何の感情も乗せてはくれなかった。日本もそれを受けて、友人の兄に対する接し方しかしなかった。菊、と呼んでくれるのは二人きりのときだけだった。思えば、最初からそうだった。名前を教えろと強引に聞き出したかと思ったら、自分も名乗って今はそれで呼べと言われた。それからは、まるでそういうルールなのだと言うように、二人きりでは真名で呼ぶ。それ以外では決して呼ばない。
夢なのだ。あれはひと時の夢に過ぎないのだと、そう思うようになった。
儘ならぬ思いだった。いつしか〝現実〟であなたを見ると胸が苦しくなった。愛を語り合ったことはなかったが、明らかな執着と思慕を互いに向けていることはわかっていた。今この時代、そんな二人の仲を頑ななまでに隠そうとする理由は何なのだろう。問いかけたかったが、その勇気が一歩踏み出せずにいた。思い浮かぶ理由の想像を一つ一つ思い起こしては、その内のどれかに当て嵌まってしまうのが堪らなく怖かった。
――悪い、俺がルール違反だった。二日前、彼がそんなことを言ったのは、二人きりのあの空間ではただのギルベルトと菊である必要があったからに過ぎない。国の化身であるからこその過去――師弟関係を口に出したのは間違いだった、そういう意味だ。
きっと私はこの関係を心地よいと感じていた。あの人と二人きりの世界では、何のしがらみもないかのように過ごせた。まるでヒトになったかのように、国の化身であることを忘れることを許された。きっとあの人も同じ。私たちはそれを望んでいたのだろう。滑稽だった。逃れられない宿命に逆らうような、目を逸らすかのような、哀れなものかもしれない。それでも、何ものにも代え難い瞬間だった。夢と現実。そんな明確な区分を設けたのは、二人きりの世界を守るためでもあったのかもしれない。だからこそ、もうあと一歩を踏み出すのが怖かった。この二人きりの世界を壊してしまうのではないかと。
そんなことを思うと同時に、声を大にして世界中に言いたいとも思う。私はあの人のものなのだと。誰かに認めて欲しかった。感情とかそんな見えない何かでは不安だった。私とあの人の明瞭な現実が欲しかった。露と消えてしまう夢なんかではなく、現実で彼と深く繋がりたかった。
この二日間、散々に刻み付けられた彼の痕跡がじくじくと熱を発し始める。は、と吐き出した呼気は多分に熱を孕んでいた。
「日本?」
呼ばれた声に弾かれたように顔をあげる。思考の海を彷徨っていたのを引き戻したのはドイツだった。
「大丈夫か?」
「え…?」
「顔が赤い。熱でもあるんじゃないか?」
「い、いえ! そんなことはありません」
「本当か? また忙しくしているんじゃないだろうな」
眉を寄せ、心配そうに言うドイツに首を振る。
「本当に大丈夫ですよ。昨日一昨日と休暇を頂いていたので」
ドイツを安心させるために口を衝いて出た言葉に、日本は墓穴を掘ったと目を泳がせた。とてもご令弟に聞かせるわけにはいかない、あられもない二日間の数々のシーンが眼裏を巡って顔が熱くなる。
「そうだったのか。ならば、会議ついでにこっちに来ていればよかったのにな。イタリアも喜んだだろう。もちろん休息を邪魔するつもりはないが、宿なら我が家を提供したのに」
ええ、実はしっかりとドイツにいたんですけどね。と口に出すわけにいかず、曖昧に微笑った。
「そうすればよかったです。ドイツさんのクーヘンをいただけたかもしれないのに」
「はは、そうだな。いくらでも作ったものを。また今度、近いうちにゆっくりしよう。イタリアも交えて」
「はい、ぜひ」
「ああ、イタリアと言えばうちに来ていたんだが、日本も呼べばよかったのにと強く責められてな」
「それは…相すみません」
「いや、その…心配したんだぞ?」
「はい?」
「君に連絡したんだが繋がらなくて…」
日本はぴくりと引き攣りそうだった顔をどうにか自然を装って眉を下げた。
携帯はあの人に取り上げられていましたからね。あの二日間は音信不通でしたとも。
「…実は休暇の間に携帯をどこかにやってしまったんですよ。見つかったんですけどね。爺なもので、物をどこにやったか忘れてしまって」
「そうだったのか。安心した。何かに巻き込まれでもしていたらと思ったんだが、兄貴が気にすることはないと言うものだから」
「……プロイセン君が」
「ああ。どうせ仕事で忙しいか失くしたかだろ、と」
「…そうですか」
「その兄貴もここ二日間、帰って来なかったんだ。会議の準備は事前にやってあったが、イタリアが来ているというのに仕事の電話しかしてこなくて」
「イタリア君がいるのに珍しいですね…」
「そうだろう? まったく…あの人の行動は理解できん」
「…ええ、本当に」
自然に微笑むことが出来たかはわからないが、取り敢えずいつも通りのアルカイックスマイルを浮かべたつもりだった。
「大丈夫か?」
「は、い…?」
「やはり顔が赤い。熱を測ったほうが、」
「だ、大丈夫ですよ。ご心配なさらず。その…会議に使う資料を持ってくるのを忘れたことを急に思い出しまして」
「ん? そうなのか?」
「はい。ああ、家にではなく控室に置きっぱなしだったなと。ちょっと取ってきますね」
そう言って、その場から足早に離れた。
「閉じ込めちまいてぇ」
思わず漏らした普段より低く小さな声を聞き取ったフランスは、ぎょっとしてこっちを見た。
「え…? は? ちょっと待っ…え?」
プロイセンとその視線の先を交互に見つつ、動揺しまくるフランスを睨む。
「…何だよ」
「いや、何だよってお前ね…」
信じられないというような目が煩わしい。
「弟? 弟をそんな目で見てんの、おまえ」
そっちかよ、という言葉を咄嗟に飲み込む。
プロイセンの視線の先、愛する弟の隣にいるのは日本だった。昨日一昨日の痴態までありありと脳裏に浮かんだが、素知らぬ振りをする。
どうして、とか、何で、とか問うより先に手を伸ばしてしまったその男と誰も知らない関係を結んだのは、未来の見えない昏い時代の頃だった。恋人だなんて言えるような甘いものでは決してなかった。けれど、遊びとかそんなふうに言うにしては重かった。遠い昔に淡い恋心のようなもの――果たしてそれが本当にそうだったのかはわからない――きっと恋になるには未熟な感情をあの男女に抱いたこともあったが、日本に抱いた感情はそれとは違う気がする。それは今なお理解出来てはいない。恋と呼ぶには重苦しく、愛と呼ぶにはあまりにも汚い。俺は清廉な愛しか知らない。だからこれは愛なんかじゃないと思っていた。あいつを想う感情はぐちゃぐちゃに混ざり合って、ひとつひとつの要素がわからなくなってしまっているみたいで掴みどころがなかった。
限られたふたりきりの時間は烈しいものだった。それでも、確かに何かを得たと思わせる時間だった。一時のことだと思っていた。長く逢えない日々を挟んで互いに大きく立場を変えていたのに、再会を果たしたときの日本の表情は今も忘れはしない。頬を朱に染め、瞳が星空のように潤んでいた。泣き笑いみたいなその顔を見た瞬間、無意識に手を伸ばしていた。そして名も付かない関係は今現在まで続いている。
弟と会話を続けている日本に視線を滑らす。ドイツが世界に誇るブランドのスーツに身を包んだ彼を見ると、胸の内のどこかが満たされるような気分になった。俺色に染まればいいと思う。全部、総て、俺一色になってしまえと思う。
何年か前にツェッペリンの腕時計を渡した。あいつにはもっとシンプルなのが似合うのかもしれないが、あいつの好みくらい心得ている。文字盤が大きくて主張が強いが、渡した瞬間目を輝かせていた。その夜色の眼が格好いいですと語っているのは目に取れた。文字盤がネイビーなのを選んだことに対して、あいつは何も言ってはこなかった。きっと俺の気持ちなんてわかっていて、あえて何も言わなかったんだろう。あいつが身に着けるとしたら、黒か茶のレザーベルトに白の文字盤、または全体的にシルバーで統一されたメタルベルトの腕時計だろうと思うが、そんなことは考えないで時計を購入していた。
俺色に染まれ、もっと、もっとだ。そんな異常な感情が鎮まることはない。もっと前にはモンブランのボールペンを渡したこともあった。高級品を贈れば、あいつはそれを大事に扱うだろうという思いもあった。あいつに贈るためにせっせとバイトする俺はさぞ滑稽に見えるだろう。だが、腕時計もボールペンもあいつはしっかりと使ってくれている。俺があげた腕時計を身に着け、俺があげたボールペンでメモを取るんだ。そんなことをしている内に到頭スーツにまで到ってしまった。強制的な贈り物だった。あいつの服を切り刻んで、もうこれしか着るものがないだろうと押し付けたに過ぎない。どんな顔をしていたか見たくなくて視線を向けなかったが、戸惑いの声は聞こえた。あいつは俺の贈り物を嬉しそうに受け取るが、スーツは流石にどうだかと反応を見るのは嫌だった。思い出せばいいと思う。俺が二度とは立てない舞台で邁進するお前が、振り返ってくれるようにと。進むことは不可能な置き去りの俺を見てくれと。子どもじみた情けない欲求だと思った。
どこか、誰も知らない場所に閉じ込めたいと思う。誰も行きつくことが出来ない場所でふたりきりになれたらと思う。そうすれば、あいつは俺だけを見てくれるんだろう。そんなことを思うと同時に、俺が行けないとこまで行ってくれとも思う。誰に憚ることなく、自由な翼でどこまでも高いところへ行って欲しいとも願う。俺なんかに囚われることなく。
その身体にめちゃくちゃに傷痕を残してやりたいと思う。それが痛むたびに俺を感じろと思う。けれども、誰にも傷付けられないでくれとも思う。――…俺に、だって。真綿に包まれた苦しみのない世界でも見つけてくれよと願う。
わからない。矛盾した気持ちがたくさんあって、あいつへの感情が一体何なのか理解できない。それでも、執着するのには十分な重い感情であった。
ひとつだけはっきりしていることがある。俺はあいつを哀しませることだけは嫌だった。でもどんなにそれを望もうと成し遂げようとしようとも、上手く出来るかはわかるわけがない。運命みたいな、およそ己の力ではどうにもならないことがあるのだから。俺はお前を上手に愛してやることは出来ないのだろう。自分の感情すら理解できやしないのだから。だから知らなくていい。誰もこのことは。俺が勝手にあいつを想って、勝手に何かして、勝手に執着しているだけ。俺に何かあったって、哀しまない振りをして欲しい。知らなければ誰もお前には何も言わないだろう。一時の夢だったと、現実で目を覚ませばいいのだ。そうして、なんでもない日常を続けてくれればいい。
それに多分俺は覚悟が出来ていないんだ。それはお前もそうなんだろう。何も言わないのはお互い様だ。あと一歩を踏み出さないのもお互い様だ。このままで満足だと嘯いて、名の付かない関係を続けていた。夢は夢のままでいい、と。
「プロイセン?」
「あ…?」
思考の海に捉われ、ぼんやりしていたプロイセンにフランスが怪訝そうな、あるいは心配そうな顔を向けた。
「お前まさか本当にドイツのこと、」
「馬鹿言うな」
プロイセンの表情に何を見出したのか、フランスはやけに真剣な顔をしていた。
「閉じ込めてやりてーってのは、辛苦から解放してやりてぇってこった」
「はあ?」
「ヴェストに迷惑かける奴ひとりずつぶん殴ってやりたいともいう。てめぇもな」
にやり、と笑って言えば、ぽかんとしたフランスが一瞬で呆れ顔になった。
「ええ? ってか、お兄さんはどっちかっていうと、ドイツと一緒に一生懸命頑張ってるほうだと思うんですけどー」
「じゃあセクハラとかすんなよ。お前、いつか本気で嫌われるからな」
「ひどい! 俺はみんなに愛を振り撒いているだけなのに! どれも本気なんだから!」
愛、ね。そりゃ一体どういうもんなんだよ。そう言おうとしてやめた。そんなことを聞いてしまえば、目を輝かせたこいつに根掘り葉掘り質問されるだけだ。
俺は日本に惹きつけられそうな視線を必死に隣の男に向ける。喚くフランスを軽く殴れば、小さく抵抗してくるのにケセセセと笑い声をあげて意識を逸らした。