34274回目の羈紲

 

『緊急ニュースをお送りします。イリュリア連王国第一連王カイ=キスク主席が二一八七年の国際連合の会議で「人類とギアの共存政策」を提言していたとの情報が………』

 男は耳障りなニュースを発するラジオを止めた。止めるだけのつもりが勢いあまってそれはぐしゃぐしゃに潰れた。
 突然の破壊音に目を覚ましたのか、硬い寝台の上でもぞもぞとシーツが動く。目を擦りながら身体を起こして、外れかけていた眼帯を直した子どもが首を傾げた。

「どっか行くのか?」
「希望を奪いに」



 驚いたように蒼碧が丸くなる。その一方はもう実際は違う色なのだと知っている。

「……ソル。収拾がつくまでイリュリアには近寄るなと――ぐッ!」

 生白い喉もとを掴んで力任せに壁に押しつける。痛みに呻いたカイは、突然の暴挙に驚きながらも怒りを篭めて睥睨してきた。

「テメェが奔走したところで、最悪の結果が待ってるだけだ」
「な、に……ぅっ、はな、せ……ッ」
「なァ、」
「んぅっ……ッ!?」

 がぶりと小ぶりな唇に噛みつき、貪る。

「ふ、ぁ…ッ……んっ…!」

 両の手首を痕がつくほど強く掴み、壁に縫いつけて拘束する。きつく閉じられたままの唇を強引に抉じ開け、がむしゃらにカイの口腔を蹂躙した。
 驚愕に見開かれた澄んだ双眸が次第に朧々としていき、無茶苦茶に暴れて抵抗する身体に力が入らなくなった頃、ようやくソルは唇を解放した。

「ん…ぁ……なん…で……っ」

 揺れるブルーグリーンが信じられないものでも見るようにソルを仰いでいる。
 当然だ。こんなことをする仲では決してなかった。でもあのときお前は、俺に秘密を漏らした。

「俺を愛しているのなら、」

 限界まで見開かれた大きな瞳に見たこともない表情をしている自分が映っている。

――俺のために生きろよ」

 今さら気づいた。
 お前がいないのなら生きてはいけない。それほどに――愛している。