TOP > Guilty Gear > Sol x Ky > Theme > ただひとつの火がきみだった > 05
5.そして天使は堕ちる
ふ、と突然落ちた意識は、まるで崖の淵から突き飛ばされたかのように落下していく感覚だった。
気がつくと、雑踏にいるような喧騒の中に突然放り出されていた。反射的に強く閉ざしていた瞼を開けて、カイは眼前に広がる景色に大きく目を見開いた。
聳える高層ビル群が遠目に見える。目の前を通る道路には見慣れた馬車など一輌も走っていない。そこかしこに聳える建物も、道一つすら、冷たく重い印象を与えた。まるで異世界にでも立っているかのような居心地の悪さがある。
カイは呆然と乱立した建物に囲まれた狭い空を見上げた。すぐ傍を通り抜けた数人の会話が英語だったのを聞き取って、周囲をゆっくりと見渡す。
「ここ、は……」
ぽつりと自失して呟いた声には返事があった。
「ダラス」
突然背後から聞こえた声に驚いて振り返ると、ギアメーカーが立っていた。
「……ここが…アメリカ……?」
「2015年のね」
「ッ……!」
「まだジールの配給からわずか五年だ。君には悪魔の都市にでも見えるのかな」
科学技術体系は悪だ。神が創った自然を人間の意のままに捻じ曲げる、恐ろしいもの。そう信じて疑わないときがカイにもあった。ただその思想が誰かから、何かから、植えつけられたものではないとはもう言い切れないほどには頑なではなくなっていた。
「………2015年」
カイが生まれるより百五十年近くも前だ。
まやかしだ。咄嗟にそう思った。そんなことあり得ない。あり得るはずがない。
「アクセル=ロウ」
「っ!」
カイの思考を先読みしたかのように飛鳥が口を開いた。
「君も知っているはずだ。僕に彼のような力がないとは言い切れないだろう?」
「……アクセルは自身の意思で時を飛んでいるわけじゃないはずです。……もしあなたに思い通りに時間を超越する力があるのなら、この世界はあなたの意のままだ。百年に渡る聖戦が起こり、人類が滅びかけ、ギアへの怨嗟を募らせる世界があなたの望んだ世界なのですか」
「僕は君と違って名声も力もないんだ。いくら時を超えられたとしても、僕一人の力で変えられることなど限られている」
「…………………」
「疑っているね」
飛鳥は少しの沈黙のあと、警官に剣先を突きつけられた犯人のように両手を挙げてみせた。
「わかった。正直に言うよ。僕に因果律に干渉する力などない。でも言ったはずだ。君にあなたの仕業かと問われたときに、〝正確には〟違うって。僕にだって力を貸してくれる人はいる」
フードに隠れて見えないため、表情の機微で真偽を見抜くことはできない。声音に妙なところは感じなかったし偽りのようには聞こえなかったが、だからといって素直に信じられるわけがなかった。そしてどっちにしろ、カイには今見ているものの真偽を確かめようがない。
カイは見慣れぬ景色をゆっくりと見渡してから、とにかく先に進むことにした。
「……なぜ私をここに」
「殺してほしい人がいる」
「っ、な――」
「あそこに、」
明日の天気でも答えるかような気軽さで紡がれた言葉にぎょっとしたカイが怒声をあげるより先に、飛鳥が遮った。柔らかで静かな声だというのに、有無を言わせない威圧を感じる。咄嗟に口を紡いだカイの前に生白い指先が伸び、その人差し指がどこかを指し示していた。
指の先を追っていくと、示された先にはカフェテラスがある。通りに面して鮮やかな朱色のパラソルが並び、その影で賑わう人々がいた。その内の一つのテーブルを指した飛鳥が続けた。
「白い髪の目もとを隠した男がいるだろう? あれが僕だ」
信じられないことを平然と告げられ絶句したカイに、更なる追い打ちがかけられた。
「その向かいに座っているのが――」
長い前髪で目もとを隠した白銀の髪の男の前に腰かけている人がいる。あまり整えられていない黒い短髪の男性だ。左手にコーヒーカップを持ち、向かいの白髪の男性――ギアメーカーによれば彼本人――と親しげに話している。その端正な顔にどことなく身覚えがあるような気がした。少し前髪のかかる目が瞬く。柔らかく笑むように撓んだ目が海のような深い青色だと気づき、カイが気のせいかと納得した、そのときだった。
「――フレデリックだ」
「ッ……!!」
あまりの衝撃に勢いよく飛鳥を振り返ったが、彼は自身とフレデリックのいる席を真っ直ぐに見つめているだけで、カイにほんの少しの視線も寄こすことはなかった。
なぜかわからない。わからないが、異様に心臓が早鐘を打っている。高鳴っているのではない。カイは自身の指先がわずかに震えているのに気づいた。これは恐怖に近い何かだ。思わず胸もとをぎゅっと握り締め、カイは一度ゆっくりと瞼を閉じ、そして開かれた瞳に黒髪の男の姿を映した。
言われてみると、確かにソルと同じ顔立ちだった。しかし、ソルにある鋭いほどの精悍さはなく、目もとに微かにある隈や少し乱れた黒い短髪、無雑作に捲られたシャツの袖など、多少の無精さを感じる。捲られた袖から覗くサンキスドの肌は成人男性並みの筋肉はついているものの、カイの知っている逞しさは欠片もない。そして何より、その顔に乗る二つの眼の色と、それが形作る表情がまるで違った。
長い沈黙があった。カイも飛鳥もしばらく口を開かなかった。立ち尽くす二人を不審げに街行く人が何人も通り過ぎて、そして黒髪の男性がカップを傾けてコーヒーを一口飲み、こくりと喉仏が動くのを見てから、ようやくカイは口を開いた。
「………隣の女性は」
ずっと視界には入っていた。それでもソルの――いや、フレデリックの姿が受け止められなくて、その女性に気が向かなかった。
「……フレデリックから聞いていないのかい?」
わずかに驚嘆の乗る飛鳥の返事に押し黙る。
ギアメーカーがカイとソルの関係をどう捉えているのか知らないが、少なくともそのようなことを話すほど親しい関係では決してなかった。ソルがそんなことをカイに話すわけがない。シンを預けてから多少距離は縮まったかもしれないが、それでもソルからすれば精々腐れ縁程度の関係でしかないだろう。
「………アリア」
飛鳥の声はやけに情緒的に聞こえた。
「アリア=ヘイル。フレデリックが最も愛する女……彼の恋人だよ」
カイは息を呑み、美しい薔薇色の髪の女性をじっと見つめた。長い横髪を耳にかけ、フレデリックを覗き込むようにして何かを囁き、笑っている。陽だまりみたいな明るい笑顔に絆されたかのように、フレデリックも薄く笑みを刷いていた。
「もうすぐ予算がおりて、本格的にギア計画が進められる」
「っ……」
「僕らは同じ研究所に務めていた。そしてあの日、軍が――……いや、これは今の君に話すべきことではないね」
怪訝に眉を寄せたカイへ、ずっとテラス席の一つのテーブルを見つめていた飛鳥がようやく振り向く。
「君が王の格好をしていなくてよかったよ。この時代ではかなり手の込んだコスプレにしか見えないから目立ってしまうからね。僕は……ちょっと不審者だと思われているかもしれないけど」
突然方向の変わった話にカイが口を挟む隙を与えず、飛鳥は続けた。
「この時代に君ほどの術者に高精度な法術で人を殺めてもらっては困る。原始的だろうけど、これで頼むよ」
そう言って懐から出されたものに瞠目する。
それは陽の光に照らされ、眩しく銀を瞬かせた。……ナイフだ。
柄のほうを向けられ差し出されたそれを素直に受け取れるはずもなく、カイは凄気を滲ませた双眸で飛鳥を強く見据えた。
飛鳥はわずかに間を置いてから、カイを真っ直ぐに見つめて唇を震わせた。
「――フレデリックをギアにしたのは僕だ」
「ッ……」
「完全に僕の単独行動だった。他の誰も彼をギアに改造しようとはしない。……僕の言っている意味がわかるよね?」
さらに近くに差し出されたナイフの銀の眩しい。
その意味をわからないわけではなかった。それでも一つの事実を突きつけるかのように、飛鳥が駄目押しをする。
「僕を殺せば、フレデリックは救われる」
カイは思わず差し出されたナイフを受け取っていた。どんな情動に起因してそうしたのかわからない。柄のほうだからといって凶器が眼前にあるのが嫌だったからだ。そうに違いない。カイは震える指先でぎゅっとナイフを握り締め、そう自分に納得させた。冷静になるように深呼吸してから口を開く。
「………騙されませんよ」
「うん?」
「ここが本当に過去であるはずがない。あなたの作り出したまやかしでしょう?」
「どうしてそう思うんだい?」
「例え、本当にあなたにアクセルのような力があったとしても、私に自分を殺させるはずがない。あなたは私にソルのことを「本当に大切な人」だと言っていた。その言葉に嘘があるようには思えなかった。その大切な人をギアにしたからには、相応の理由があったはず。それを阻止してしまう私に、むざむざと自分を殺させはしない」
「……どうかな。君は僕を知らないだろう。僕は自分のためなら友人の意思を蹂躙できるソシオパスかもしれないよ」
「………だとしても、あなたはソルをギアに改造したかったからそうしたのでしょう? 私に自分を殺させる理由はない」
しばらくの沈黙があった。
飛鳥が動く。
「どっちでもいいんじゃないかな」
「え……?」
若干呆れたかのように飛鳥が肩を竦めてみせた。
「君が言った通り、例え今君が見ているものが幻だったとしても、君がやることは一つだと思うけど。ここが僕が作り出したまやかしならば、君があそこにいる僕を殺したところで何も変わらない。フレデリックは僕にギアにされるし、君の見知った世界の現状は変わらずそのままだ。何のペナルティもない。そして、もしここが本当に過去のある時点の現実ならば、君が僕を殺すことでフレデリックは救われる。君が言った「惨たらしい人生」を歩まずに済む」
フードに隠れて見えないというのに、その下から鋭く見据えられた気がした。
「君が今やるべきことはたった一つだよね?」
何も、言い返すことができなかった。
「僕は君に選択を迫っているわけではない。ただ僕は一つの策を提示しただけだ。それは未来への干渉でも何でもない。フレデリックが救われるために何をすべきか、その一点だけだ。何かと何かを天秤にかけたわけでも、択び難い選択肢を突きつけたわけでもない。何を迷う必要があるんだい?」
「っ……わたし、は……」
「ああ、人を殺したくないのかな?」
「………………」
「でも自分でもわかっているはずだ。君は……人殺しの目をしている」
「…ッ……」
「君は数多の戦場を生き抜いた立派な軍人だ。戦場では通常の倫理に取って代わり、非情の倫理が適用される。わかっているだろう。人を殺して死刑になる人もいれば、大勢殺して英雄になった人もたくさんいる。君は確かに英雄だ。そして軍隊を指揮する立場にあった。喝采を浴びれば浴びた分だけ、懊悩してきたはずだ。理想主義者である君なんかは特に。君の号令で死地に向かい、君の命を救うために鼓動を止めた人がいる。君はそれを最大幸福のためと割り切れるほど、悪人でも無情でもない」
「っ、あなたに何がッ――」
「わかるのか、わかってたまるか、かい? その通りだ。君は僕と対峙したとき、それはもう憎しみの篭った目で見てきたけれど、君だって――いや、人類の希望として最前線で戦っていた君だからこそ、よく知っているだろう? 僕は大罪人、ギアメーカーだ。幼い君を戦場に放り投げた起因でもある。今さら僕一人を殺すことくらい何の躊躇いがあるっていうんだい?」
「………あそこにいるあなたはまだ罪を犯していない」
「優しいね。君の慈悲深い愛は万人に注がれるんだね。こんな僕にも」
「………………」
「とても欲深い人間とは思えない。まるで天使だ。民衆が君を信仰するわけだよ。他者を愛し、他者を赦し、他者を救う、完璧な人間だ」
あまりにも静かな、動のない声だった。すっと鼓膜を通り抜け、まるで身体中に沁みわたるかのごとく。
「――それとも、」
フードに隠れ視線が合っているかもわからないというのに、目を離せない威圧があった。
「僕を殺したくない理由が他にあるのかな?」
ひゅ、とカイの呼吸が歪が止まる。
「ねえ、美しい天使が堕天するのはどんなときだと思う? 罪を犯したとき? 心に悪徳が芽生えたとき? ……違う。自分が持っていた我欲に気づいたときだ」
息もつけないような凄気の中で、それでもカイはゆっくりと口を開いた。
「………なにを言いたいのですか」
少しの沈黙が落ちる。
「……話が逸れちゃったね。確かにあそこにいる僕はまだ罪を犯していないかもしれない。でもギア細胞の基礎理論を完成させた」
「……でもそれは、」
「そう、まだ医療研究だ。よく最大幸福のために最小幸福を犠牲にすることは許されるのかと議論されるが、何十億もの人類がこの先死ぬのと、それを防げる可能性がある殺人を一件起こすの、この場合は最大幸福を選んでいいんじゃないかな。他でもない本人が最小幸福を放棄しているのだから」
カイは何も言い返せなかった。
道徳的な話は置いておくにしても、飛鳥の言っていることは正しい。彼はカイに選択を迫っているわけではない。彼が言った通り、カイの見ているこの光景が幻だろうと現実だろうと、「フレデリックを救うため」にするべきことはたった一つだ。
手の中の小さいナイフが重みを増した気がした。
「いや、人類の話は置いておこう。要はフレデリックが救われるために、僕を殺すことに賭けてみないかと言っている」
………フレデリックを、救うために。
「君が言ったんだ。『ふつうは、大切なひとにあんな惨たらしい人生を歩ませない』。彼に「惨たらしい人生を歩ませ」たくはないのだろう? 君は彼のことをとても大切に思っているように見えたけど」
彼――フレデリックを。
そうだ。いつか彼が心の底から救われることを祈っていた。
ソルのことなど、カイは何も知らない。飛鳥の言っていることの真偽など、確かめようがないほどに何一つ知らなかった。けれど、彼が地獄を生きる目をしていることだけは知っていた。あんなに昏い双眸を持つ人をカイは見たことがなかった。孤高で、幾重にも重なった積憂が乗り、それでも前を真っ直ぐに見据えている強い眼。どれだけの地獄を生き抜けば、あんな目になるというのだろう。そう何度も思っては、彼がいつか救われることを願っていた。いつか、彼が安らかな朝日を迎えることを。心の底から微笑みを浮かべられることを。
カイの視線の先には、見知った顔で見知らぬ表情を浮かべる男がいる。愛する女性と微笑み合い、友人と気さくに話す、知らない人。
あれが、ソルが失くした幸せ。享受するはずだった何でもないありふれた日常。
カイは一歩足を前に出した。一歩、また一歩と、機械人形のようなぎこちなさで進んでいく。
『フレデリックをギアにしたのは僕だ』
『僕を殺せば、フレデリックは救われる』
視界に白銀の髪が揺らめく。
あの男を殺せば、彼は救われる。
徐々に速まっていく足は人混みを割って、鮮やかな朱色のパラソルの下を目指していく。
ギアメーカーの考えていることなど、まるでわからない。これからの百年以上の生をなしにしてまで、彼が過去の自分を殺させるはずがない。それでも、今のカイの目にはソルを救うことしか見えていなかった。
「っ――……きゃあッ!」
通りすがりの女性が悲鳴をあげた。それを皮切りに、カイの手にある凶器に気づいた人たちがパニックになり逃げ惑う。悲鳴も、幾重にも重なる足音も、逃げ回る人が転ぶ様も、あまりにもリアルだった。
ドンッ、と逃げ惑う人並みに押された女性の肩がカイに当たった。その反動で揺らめく。肩に感じた感触も、すれ違う女性の恐怖に満ちた表情も、あまりにもリアルだ。これがまやかしとは思えないほどに。
駆ける足の速度が遅くなる。
『フレデリックが救われるために、僕を殺すことに賭けてみないかと言っている』
『君が言ったんだ。彼に「惨たらしい人生を歩ませ」たくはないのだろう? 君は彼のことをとても大切に思っているように見えたけど』
そうだ。大切だった。いつの間にか、こんなにも。
救いたかった。もし高望みでないならば、この手で光あるところへ連れていきたかった。安らかな明日を迎えられるように。
彼は救われるべきひとだ。紛れもなく。
フレデリックが微笑っている。誰よりも愛する人と、かけがえのない友人と。あれは奪われていいものではない。あの何でもない仕合わせを守るチャンスが私にあるというのならば。
緩んでいた足が今一度強くコンクリートを蹴り上げた。
『はぁ? ソルって誰だよ』
『誰だよ、ソルって! そんな奴、俺は知らない……っ!』
『我々はソルという人物に心当たりはありません』
『……正直に言うよ。カイは狂ってる』
『異常なのはお前だ』
『他の誰もが、だ! 誰一人そんな男のことなど知らないッ!』
どうしてか、眼裏ではあの絶望の日々の幻影がめまぐるしく去来していた。
『ッ、ちがう。ちがう違う違う! 私はおかしくなんかなってないッ! あいつは、ソルは……っそる…どうして……ッ』
『私はおかしくなどなっていない! 狂ってなんていないッ!』
『他の誰が忘れてしまっても私だけは……ッ! あいつを、ソルを覚えてる!!』
『ソル……ッ! どうして返事をしてくれないんだ!!』
『そる…っ、ソルソルソル……!!』
近づいていく。朱色のパラソルが残酷なほど鮮やかだ。
ついに、フレデリックがカイの――いや、通り魔の――存在に気づいた。
見知った顔の見知らぬ深い海色の双眸がカイを見て大きく見開かれ、その顔には似つかわしくない恐怖がありありと浮かぶ。
『……ふつうは、大切なひとにあんな惨たらしい人生を歩ませない』
『………そう。でも君は僕と同じ穴の狢だよ』
アリアが悲鳴をあげた。彼女を庇ったフレデリックがカイの目的が飛鳥だと気づき、親友へと手を伸ばす。
『君はきっと――』
――……わたし、は。
悲鳴をあげて逃げ惑う人々。血に染まる聖騎士の装束。耳を塞ぎたくなるほどの仲間の絶叫。血と臓物と腐臭。歪に千切れた肉塊。それを抱えて哀哭する悲痛な声。そして、坊やと嘲る男の冷め切ったレディッシュブラウンの眼。
……憎い。ソルや人々を絶望に陥れたこの男が。
蒼碧の人殺しの目が冷たく白髪の男を見下ろした。
『でも残念だけど、「ソル=バッドガイ」は存在しないよ。少なくとも、この世界にはね』
『誰もソルなんて男のことは知らない。知るはずがない』
『君がフレデリックに出逢うはずがない』
『彼は君が生まれるよりずっと前に天国に召されているよ』
金糸の長い前髪から覗くブルーグリーンが揺れたのを飛鳥は見た。……君はきっと。
『――僕と同じ罪を犯す』
カイは、飛鳥=R=クロイツに向かってナイフを振り上げた。
(続く)