TOP > Guilty Gear > Sol x Ky > Novel > blue-eyed boy > 01
ソルがたくましい身体をのそりと動かし、騒がしいリビングルームへ足を踏み入れたのは昼前のことだった。ソルの大きい身体でも広々としたふかふかの寝台で惰眠を貪り、ランチを求めてドアを開け放ち、そしてソルはぴしりと固まった。
「………いつの間に二人目産んで育てたんだ」
しばらくの硬直のあと、どうにか声を振り絞った。
豊満な胸をぎゅむっと押しつぶしながら、ディズィーが少年を背後から抱えている。短い蜂蜜色の髪、長い前髪から覗く大きい蒼碧の双眸、まろい淡雪の頬、小ぶりな薄桃の唇。なんともまぁ、そっくりだ。そっくり過ぎる。ソルが入団したばかりの聖騎士団で出会ったあの少年に。シンも随分と父親のほうに似ているが、あいつの染色体どうなってんだ。あのまだ九九すら取得できていないシンが兄になってしまうのか……と遠い目をしたソルに、父親激似の少年の子どもらしからなぬ冷たい視線が突き刺さった。
「……ソル。私だ」
ディズィーに抱えられている少年がその幼い容姿に似つかわしくない冷め切った声を発する。ソルは一度大きく瞬き、もみくちゃになっている少年と視線を交わした。
ディズィーはお気に入りのぬいぐるみでも抱えるみたいに背後から抱きつき、シンは面白そうにぷくっとした頬をつついている。その隣でラムレザルがシンの真似をしてもう一方の頬をつつき、ネクロとウンディーネも顕現してディズィーの背後から少年をぺたぺた触っていた。さらに、その様をきらきらと瞳を輝かせたエルフェルトが写真を撮りまくっている。
今さらだが、凄まじい光景だ。方々から興味津々な視線に晒され、あまつさえ身体中触られている少年はその美しい容貌と似合わず、疲れ切ったような目をしていた。
「……坊やか?」
「随分となつかしい呼び方だな」
「外見だけちまっこくなってんのかよ」
そりゃそうか、と頷く。もしこの少年があの頃のカイそのものであったなら、もっと大騒ぎになっていた――どころか、悲惨なことになっていたかもしれない。ギアに容赦のない少年の戦う姿が眼裏に蘇り、その記憶とはあまりにも差異のある今の光景にソルは目を細めた。
(……人外しかいねぇじゃねぇか)
今さら、そんなことを思い知る。
中心にいる少年を除き、人ならざる者だらけのリビングルームに、ソルは苦味の滞留したような、名状し難い微妙な表情で目を伏せた。
「……で、何でそんなことになってやがる」
きゃっきゃとはしゃぐ周りはソルとカイの会話に気にもとめず、各々小さくなったカイを玩具にしている。
後ろからディズィーに頬にちう、とキスされて、少年の淡雪の頬が薄紅に染まった。それに「ずりぃ!」と声をあげたシンがカイを挟んで母親の頬へキスを落とす。ぎゅむっと嫁と子に挟まれた少年がシンの脇の下から首を伸ばして再度ソルを視界に入れた。私も私もとはしゃいだエルフェルトの声と首を傾げるラムレザルへシンが話しかける声の隙間から、随分となつかしい高めの声が届いた。
「………ファウスト先生の」
もういい、と片手で制す。
ことごとく面倒事が好きな坊やだな、と呆れながら、群がる家族たちになされるがままのカイを眺めた。
小さくなった身長、今よりなお細い腕や腰。短い金糸は光をうけ瞬き、今よりもふっくらとした子どもらしい頬は淡く朱を刷いている。春空のような瞳は今よりも大きく、その虹彩に映る自分の姿。
ディズィーが話しかけたことで視線が逸れ、背後の妻を見るために少年の頸が持ち上がる。晒された抜けるように白い喉笛を見て、ソルの背がぞくりと震えた。
ちょうどあれくらいの頃だ。大怪我をしたカイをソルが介抱したのは。化け物の血にまみれた少年の服を脱がせ、治癒を施し、そして。
意識を失っていたカイは何も知らない。あの一夜の出来事を。あれでも我慢したのだ。捨て去ったはずの忍耐を掻き集め、あと少しのところでとどまった。我慢などと程遠いソルがそれはもう自制した。
だがもういいだろう。見た目はあの頃と同じ幼い少年だが、中身は歴とした大人だ。ソルは無意識のうちに口角を歪に吊り上げていた。
一言二言の会話のあと、首を戻したカイがソルを見て息を呑む。舐め回すようなねっとりとした視線に晒され、カイはまるい頬を赤らめたあと、青褪めた。ひく、と頬が引き攣る。反射的に腹のあたりに回っている妻の腕にぎゅっと縋りつくと、柔らかく抱きしめてくれる。可愛い! という大変不本意な声と、その後ろから突き刺さるネクロの冷たい視線を知らないふりをして、カイは決意した。明日には戻るというファウストの言葉を信じるしかない。とりあえず、今日はソルには絶対に近づかない。
果たして、無事一日を終えられた。
無事、といっていいかは微妙なところであるが。少年の頃のカイを知っているのは、この家にはソルしかいないわけで、ディズィーは目を輝かせ、まるで子どもにでも接するみたいに甘く構ってくるし、シンは新しい玩具でも見つけたみたいに散々からかってくるし、ラムレザルは不可思議を解明しようとする研究者のような目でじっと観察してくるし、エルフェルトにはマシンガントークによる質問攻めにあった。
たった今も、親子三人で入浴などという、シンがもっと幼い頃ですらやったことのないことが起きた。ディズィーが当然のようにカイと入ろうとし、カイが異論を唱える間もなく、俺も俺もとシンが参加した。シンには体型の違いを揶揄われ――ちっせー! とか、筋肉ねー! とか――息子に言われるにしては哀しい言葉が浴びせられた。もとの大きさに戻ってもすでにシンには体格も身長も負けていると思い起こし、さらに落ち込んだ。ディズィーは喜々としてカイの身体を洗おうとしてくるし――うまくかわせず、結局髪から足先まできっちり洗われた――目下に広がる美しい裸身から目を逸らすのが必死だった。
挙げ句、この服だ。身長も体格も縮まったおかげで現在の服は大きいわけだが、風呂上がりにディズィーから満悦顔で差し出されたのは彼女の寝間着だった。いつの日か、「カイさんの色です」と愛らしく頬を桃色に染めて披露してくれたそれは、いわゆるベビードールというやつだ。顔を引き攣らせ逃げようとしたカイは、女神のような微笑を浮かべたウンディーネに止められた。少女のように頬を染め、幸せそうな顔で迫ってくる愛する妻にノーと言えず、気がついたらこの有り様だ。ディズィーには「可愛い!」と今日何度目か知れない台詞を向けられながら熱烈に抱きしめられたし、シンは先にあがっていた父母を追いかけるようにしてバスルームの扉を開けた刹那、ぎょっとして固まっていた。また揶揄われると思ったが、シンは顔を真っ赤にしてタオル一枚の姿のまま走り去ってしまった。せっかく狭まった父子の仲がまた大きく開いてしまったのではと嘆くカイとは裏腹に、ディズィーは楽しそうに笑っていた。
かくして、非常に不本意な格好となったカイは、一人寝室にいる。
予想を裏切り、ソルはカイに近づくことはなかった。ただ弄ばれてるカイを遠巻きに見ながら、ひどい憐憫の眼差しを向けてきただけだった。その哀れみの視線にかなり腹が立ったが、苛立ちをぶつけるよりも彼に近づかないほうをとった。あの悪魔も真っ青な欲望を浮かべた男へ近づくくらいなら、怒りを鎮めるほうがマシだ。
時間にして半日ほどだが、ずっと玩具のように遊ばれていたようなもので、どっと疲れが出た。歩幅の小さい足でいつもより大きく見える寝台に身を投げれば、すぐにでも夢の中に旅立てそうだ。と思ったが、腕から胸もとから足からどこもかしこもすーすーして落ち着かない。
女性が身に着ければ美しく曲線を描くだろう開いた胸もとの中心にパウダーピンクのリボン、その先はスリットがあり二股に分かれ、ボタンがあるわけもないそれは動かなければおとなしく身体を隠してくれるが、容易く左右に開いてしまう。開いてしまえば当然素肌があり、その下に唯一身に着けているのはサイズの合ってない下着だ。さすがにベビードールとセットのショーツまで渡されなかったことは不幸中の幸いだ。腿の真ん中あたりまでしかない裾にはひらひらのレースがあり、腹やら腿を滑るとくすぐったい。露骨に透けているわけではないが、やはり生地は薄い。よくよく見れば心許無い布の先の素肌が見える。
カイはおもむろに身体を起こした。着替えよう。どう考えてもカイが着るのはおかしいこれを押しつけた張本人は、「ちょっと待っててください」と言って部屋を出ていったきり戻ってこない。着替えるなら今のうちだ。そう思い、そそくさと寝台から足をおろそうとしたときだった。
――バタンッ……!
乱暴に扉が開いた。ぎょっとして顔をあげたカイの先にはソルが立っていた。
想定外だ。カイは顔を青くした。ディズィーと風呂に入り、そのまま寝室まで来たので、二人で寝るものと思っていた。そうすれば、ソルの入る隙はないと安心していたのだが、ディズィーがどこかに行ってる間に来てしまうとは。
「へえ。イイ格好してんじゃねぇか」
「ッ……」
ハッとして腕を身体に巻きつけるようにして隠すが、細っこい腕ではろくに隠せもしなかった。
最悪だ。誰にも見られたくないが、一番見られたくない相手にこんな姿を晒す羽目になるとは。男がこういうものを着ているなんてぞっとしないだろう。ディズィーが元凶だと伝えようとして口を開いたが、そんな言い方をするのも彼女に悪いような気がして、結局口を噤んだ。
「でぃ、ディズィーを待ってるところなんだ」
引き攣った顔でカイは何とかそれだけを伝えた。ソルの視線にこんな格好の自分が晒されていることが耐えられない。さすがにソルも夫婦そろった寝室に居座りはしないだろう。これでさっさと踵を返してくれればいいと思ったが、ソルは不思議そうに首を傾げただけだった。
「来ねぇぞ。俺の番だ」
「………は?」
意味がわからない。俺の番ってなんだ。
カイは知らない。
『いつ戻るんだ?』
『明日にはもとに戻るみたいです』
『へえ』
『だめですよ』
『あ?』
『日中は幼いカイさんは私たちと過ごすんです。夜まで待っててください』
という会話が父娘の間で交わされていたことを。
どういうことだ、ディズィーは戻ってこないのか、とぐるぐる考えている間に、ソルが間近に迫っていた。ぎょっとするより先にベッドに突き飛ばされる。
「ッ、まっ、待てまてッ!」
そのまま当然のようにのしかかってきた男に慌てて腕を突っ張る。
「ンだよ」
「何だよじゃないっ! だめだろう!? 倫理的に!」
「いつから俺が常識人になったんだよ」
深い呆れの吐息をつき、ソルは片眉をあげた。
「そ、そもそもお前、この頃の私に興味などなかっただろう!」
そうだ。ソルがカイに手を出したのはもっと後のことだ。聖騎士団で共に過ごした頃は、ソルはろくにカイを見やしなかった。
はぁぁ、と特大の溜め息が聞こえ、カイは片方は短い裾を引っ張りどうにか身体を隠そうとし、片方はソルの逞しい胸もとを突っ張っていた腕をぴたりと止めた。
今でさえ純粋な腕力では敵わないのに、幼くなった腕では余計役立たずだった。のしかかってきた身体はぴくりとも離れない。
「坊や」
今ではもうあまり聞かなくなった呼び方に、カイの肩がぴくりと動く。
見下ろしてくる顔はやけに真剣な眼差しをしていて、息を呑んでソルを見上げた。
「ずっとお前に言ってなかったことがある」
何を言われるかと無意識のうちに強張っていた身体から力が抜ける。カイは呆れた視線をソルに向けた。
「お前が私に言ってないことなんてごまんとあるだろう」
「まぁな」
あっさり肯定されて、わかっていたもののむっとする。
「だがこりゃあテメェにとっちゃ重要事項だ」
話しながら、武骨な手のひらがベビードールの隙間から素肌に触れてくる。胸もとから二股にわかれているところから入り込んだ手を掴んで抵抗するが、びくりとも動いてくれない。それどころか容易く返討ちにあって、細い腕はいとも簡単にソルのもう片方の手で押さえ込まれてしまった。
「この頃だった」
この頃。カイがこれくらいの年齢だったとき、ということか。
余計薄くなった腹をくすぐっていた指先が脇腹から細腰をなぞり、腿まで滑っていく。
これくらいの少年だった頃はまだ何も知らなかったが、中身は歴とした今のカイなのだ。散々教え込まれた快楽を覚えているおかげで、意思とは反して勝手に身体が熱をあげていく。
まるで形をなぞるように幼い身体に触れていたソルの指先が戻ってきたと思ったら、小さい顎を捉えられた。顔の大きさが変わったとは思わないが、頬を包み込んでくるソルの手のひらがやけに大きく感じる。
「ヴィヒティに遠征に行ったときな」
目を丸くして記憶を掘り起こそうとしているカイの小さい口に、ちう、と男には似つかわしくない触れ合うだけのキスが落とされた。頬を熱くさせながら、カイは間近にあるソルの切れ長の双眸を真っ直ぐに見つめる。
「お前が私を助けてくれたときか」
「ああ」
例のごとく作戦を無視した挙げ句連絡の取れない無法者をカイは捜しに行った。その先で大量のギアの猛攻を受けた。撤退の機を窺っていたが、戦い続けた身体は目が霞み、意識を失いそうだった。そのとき、薄れゆく意識の片隅で炎の気配を確かに感じた。
次に目覚めたときには営所にいた。団員の話では、ソルが治癒まで施し連れ帰ってきたという。あまりの情けなさにいたたまれず、届かないソルの強さに妬心し、それでも助けられたことに喜悦し、複雑な気持ちで営所内でソルを探した。大木に背を預け、紫煙を燻らせていたソルを見つけ、躊躇いつつも謝意を告げたのだった。
「この辺から」
「っ……」
する、と薄い腹を滑った武骨な指先が脇腹をくすぐる。
「血が溢れていた」
少し下がったソルがひらひらの夜着の隙間から顔を突っ込んだ。柔らかい髪が素肌を擽り、ぴくっと跳ねた細腰を力任せに押さえつけられる。
「っひ、ぅ」
れろぉ、と脇腹を舐められた。さらに、あむっと食まれて、ばたばたと足を動かすがソルの下肢が伸し掛かった足はびくともしない。
「治癒するためにこうして服を開いて、」
胸もとのパウダーピンクのリボンの紐がするりと外される。やけに緩慢な動きで布を割り開かれて、女性でもないというのに、ソルの眼下に晒されてしまった上半身にやたらと羞恥心が湧き起こった。
「この素肌を見たとき、」
「ぁっん……!」
つん、と胸の突起を弾かれて喉が鳴ってしまう。咄嗟に口を紡いだが、カイは真っ赤になって眼を潤ませた。
「欲情した」
「えっ……ッひ!」
ソルが下半身をカイに押しつける。いつの間にかくつろげられていたソルのパンツから男根が飛び出し、熱いそれが確かに芯を持ってカイの腿に擦りつけられた。
「あのときが初めてだった」
触れてもいないソルのものが熱を持っていることに唖然としていたカイに、さらなる爆弾発言が降りかかる。
「テメェをズリネタにしたのは」
「なッ!? んんぅっ……!」
あまりに衝撃的な言葉にぎょっとしたのも束の間、小さい口はがぶりと塞がれた。躊躇なく吸いついてくる唇に反射的に目を瞑る。頬を包み込むようにして固定してくる大きい手。広がった身長差のおかげでやけに大きく感じる気配。いつも以上に無駄になる抵抗。ぬるぬると咥内を縦横無尽に嬲ってくる熱い舌がまるで別の男のように感じて、慌てて瞼を開ける。当然そこにいるのはソルそのもので、安堵した途端に咥内を貪られる快楽の中で先のソルの言葉がぐるぐる巡る。
この頃だったと、ソルは言った。嘘だ。一方的な想いを向けていたのはカイのほうで、ソルなんてこれっぽっちも視線を向けてもくれなかった。冷めた双眸はカイを見ても冷たいまま、熱の篭らない声で坊やと嘲るように呼ぶ。いつだって。いつだって、追いかけていたのはカイのほうなのに。
「ふ、ぁ……っん!」
離れるのにまごついた舌の間に銀糸が垂れる。カイはキスに痺れた舌でどうにか言葉を発した。
「…っ…うそ、だ……」
「嘘じゃねぇ」
こつん、と額を合わせ、ぼやけるくらい近くなった顔がにやりと意地悪く笑う。
「もう一つ、坊やにとっておきの秘密を教えてやる」
まるで睦言でも囁くように熱っぽく放たれた声に、カイは無意識にこくんと喉を鳴らしていた。
「あのとき、意識のないテメェの身体に――」
大きい手のひらが脇腹を滑り、とろんとした目でぼんやりとソルを見つめる。
「こうして、な」
腿に当たっていた肉棒がずり、ずり、とゆっくり動いた。
「ちんこ擦りつけて、」
はっ、と熱い呼気が顔にかかった。
ソルが欲情してる……。
熱くて硬いものがずりずりと擦りつけられて、真夏の炎天下にでもいるかのように身体が熱くなる。
「この顔に」
れろぉ、と長い舌が頬を舐める。
「ぶっかけた」
カイはそこでようやくソルの言葉を理解し、弾かれたように意識を明瞭にした。
「へ、変態っ」
反射的に平手をかまそうとしていた腕は、上体を起こしたソルに呆気なく避けられた。カイは顔を真っ赤にし、信じられない秘密を暴露にした男を強く睨みつける。男はまったく意に介さず、不敵な顔をしたままだ。
いくらか混乱から脳が覚めてくると、カイの脳裏にはありありとあの日の場景が蘇った。
営所で目覚めたとき、自身の身体に変わった様子はなかった。戦闘でぼろぼろになってはいたが、服はちゃんと着ていたし、顔も汚れてなどなかった。けれど、ソルの言うことが本当なら。
「じ、じゃあ、あのとき、わたし……ッ」
あのときのカイの身体はソルの肉棒が擦りつけられ、顔には白濁がかけられた、その後だったというのか。
カイは顔を赤くしたり青くしたり百面相をして、結局真っ赤になってソルを睥睨した。
「っさ、最低だ……ッ!」
「犯してはいねぇだろうが」
「そういう問題じゃないッ!」
「散々我慢したんだぜ。外見はこんな坊やでも中身はいい大人なんだ、合法だろ?」
「違法に決まってる!」
「こんな機会そうそうねぇからな。覚悟しろ」
「い、いやだっ! やッ!」
ばたばたとがむしゃらに暴れても、より細くなった四肢はいとも容易く押さえつけられてしまう。
「坊や」
低い声に、カイはびくっと大袈裟に肩を揺らした。
「泣くんじゃねぇぞ」
いやらしく舌舐めずりした男に、生贄の子兎にでもなった心地でカイは頬を引き攣らせた。