TOP > APH > Gilbert x Kiku > Short > 155年目の告白 > 07
ちら、と二人の視線が交わった。ふわりと花咲くように微笑み合う。
その様子にフランスは頬を緩めた。
「なんやご機嫌やな?」
のほほんとした笑顔でそう言ったスペインはすでに酔っているのか頬が赤い。フランスは隣に座ったスペインとグラスを合わせる。
「そりゃあね」
なんで、と言うスペインがフランスの視線の先を追って首を傾げる。
「あそこがどないしたん?」
フランスが見ていた席にはかつての枢軸国たちが仲良さげに座っていた。イタリアを真ん中にして右にドイツ、左に日本が座っている。イタリアが大きい身振り付きで話しているのを、ドイツが時折溜め息を漏らしながら聞いている。日本は聞き役に徹しているようだった。彼らとテーブルを挟んで向かい側にプロイセンとロマーノが座っていた。ロマーノは弟の話を聞いてないようで、けれど恐らくはちゃんと聞いているのだろう。料理に舌鼓を打ちながらも時々呆れた顔で弟を見る。そのロマーノにこれも食べろよと甲斐甲斐しく世話でもしているようなプロイセンは特徴的な笑い声を時折響かせていた。
わいわいと話す仲良しな彼らのうちの二人が時々視線を合わせては微笑み合う姿にフランスは笑った。隣に座っているわけではないのに、その二人の間に飛び交う甘い空気に多少呆れを含ませつつも安堵した。そしてきっと、安堵しているのはフランスだけではない。
仲良し五人の間に割って入った影に苦笑する。日本に背後から覆いかぶさったのはアメリカだった。「にほーん!」と叫ぶような声を発しながら、アメリカが日本にくっつく。ぐえ、とでも聞こえてきそうな顔で日本は突然の衝撃に身を固くしていた。向かいに座っているプロイセンが片眉を上げたことにフランスは笑う。嫉妬深い男は嫌われるよ、と内心で揶揄した。
ドイツが何かアメリカに言っている。日本が困っているだろう、とかそんな言葉だろう。むうっと頬を膨らせたアメリカが言い返す。その間に入ったのはプロイセンだった。何を言っているかまでは聞こえないが、日本が少し眉を寄せたのを見て、おや、とフランスは首を傾げた。ドイツが顔を赤くしたのを見てプロイセンが嬉しそうに笑った。へえ。これまた日本も嫉妬深いのかもしれない。おそらく、プロイセンは愛する弟をアメリカから庇うように何か言ったのだ。俺様の天使に何言うんだ、とか、弟の自慢でもその中に織り交ぜたのだろう。そんなことを言わないでくれ兄さん、とでも言いたげなドイツに、フランスはきっとそうに違いないと頷く。
プロイセンの弟至上主義は周知の事実だが、日本はもしかしたら妬いているのかもしれない。なにそれ可愛いと思いつつも、けどなあと半世紀前の光景を思い出す。日本のプロイセンに対する想いはもはや病的と言ってもいい。フランスは少しばかり怖いなあ、と思ってしまうのだ。日本はいまだアメリカやドイツと言い合いをしているプロイセンをじっと見つめていた。その黒曜に浮かぶ色を見てフランスは苦笑する。一歩踏み間違えればヤンデレだよねえ。ぷーちゃん気をつけたほうがいいんじゃないかなー、とお節介を焼きつつ、その光景を眺めているとアメリカと目が合った。互いにぱちくりと瞬きをしてから、フランスはワイングラスを小さく掲げた。アメリカはどこか切なさを含んだような表情で、ほっと安堵の息を漏らして笑った。いつもの子どもみたいな無邪気な笑みではないそれにフランスも似たような笑みを返す。アメリカの気すら揉ませるプロイセンと日本に、お前らすごいわとしょうもない賛辞を勝手に送った。
この先がどうなるかなど誰もわかりはしない。もしかしたら、いつかあの二人は後悔してしまうのかもしれない。それでも…いや、だからこそ今のこの幸せをただ祝福したかった。
「めでたしめでたしってね」
見つめ合い、微笑み合うプロイセンと日本の物語がそう終わることを願いたい。それがどんなにあり得ない現実だとしても、今だけは。
「ハッピーエンドやなあ」
「え…」
隣から聞こえた声に驚いて顔を向けると、スペインがふわふわと楽しげに笑っていた。
「おまえ知ってたの?」
「何の話や?」
「あ、知らないのね」
へーそうなん、と会話にすらならない言葉を返される。ああ、これすごく酔ってるわ。
「あれやな」
「んー?」
「ぷーちゃん、えらい幸せそうに笑ってんなあ」
そう言われてプロイセンに視線を向ける。頬を微かに朱に染めて、特徴的な犬歯を見せて笑っていた。向かいにいる日本がそれを愛おしげに見つめている。
「そうだね」
彼らの出逢いとこれからの明るい未来に祝福を。
フランスは笑って、グラスの赤を傾けて一気にあおった。
End.
2016.1.24